配偶者の税額軽減と二次相続|「母が全部相続すれば無税」が損になることがある理由
公開日 |2026年10月時点の法令|執筆・監修:矢部 敦
父が亡くなったとき、「母が全部相続すれば税金はかからない」と税務署や知人から聞いて、そのとおりにする家庭は少なくありません。一次相続だけを見ればそれは正しいのですが、母が亡くなる二次相続まで含めると、合計の税額が増えることがあります。
仕組みと、どう決めればよいかの順序を整理します。
配偶者の税額軽減の仕組み
配偶者が実際に取得した財産のうち、1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い額までは、相続税がかかりません。遺産8,000万円を配偶者と子2人で相続する場合、配偶者が全部取得しても一次相続の税額は0円になる計算です。
ただし、この軽減を使うには税額が0円でも申告が必要で、申告期限までに分割が決まっていない財産には使えません(3年以内の分割見込書を出せば後から適用できます)。
二次相続で税額が増える3つの理由
母が亡くなったときの相続では、一次と条件が変わります。

- 配偶者の税額軽減が使えない(配偶者がいないため)
- 法定相続人が1人減るので、基礎控除が600万円少なくなる
- 母がもともと持っていた固有財産(預金・不動産など)が合算されて遺産が大きくなり、税率が上がる
一次と二次の合計で見ると何が変わるか
遺産8,000万円・母の固有財産2,000万円・子2人の条件で試算すると、母が100%取得した場合は一次0円+二次770万円=770万円、法定相続分(50%)なら一次175万円+二次180万円=355万円、母が30%取得する配分なら合計265万円が最小という試算になります。
つまり「一次で税金を払わない」ことと「合計で少なくする」ことは別です。一次で子にある程度渡しておくほうが、合計では少なくなるのが一般的な傾向です。

ただし、母の生活費を削ってはいけない
税額が最小になる配分は、母の取り分が少ない配分です。母に固有財産や十分な年金がなければ、生活費や介護費が足りなくなります。税額の計算より先に「母の手元にいくら残せば安心か」の最低ラインを家族で決め、その範囲で税額が小さい配分を選ぶのが、ファイナンシャル・プランニングとしての順序です。
本サイトの二次相続シミュレーターは、最低ラインを下回る配分を危険ゾーンとして表示し、安全圏で税額が最小になる配分を示します。
自宅がある場合の注意
母が自宅を相続すると、小規模宅地等の特例で土地の評価が80%下がり、一次相続の税額が大きく減ることがあります。二次相続で子が同じ特例を使うには同居などの要件が必要です。自宅が遺産に含まれる家庭は、特例の有無で結果が大きく変わるため、分割案を決める前に税理士に確認することをおすすめします。
計算例:遺産8,000万円・母の固有財産2,000万円・子2人
仮定条件:一次相続の遺産8,000万円(現預金相当)、母の固有財産2,000万円、子2人、小規模宅地等の特例なしと仮定。二次相続の遺産=一次で母が取得した額+固有財産(取り崩しなし)。
| 母の取得割合 | 一次相続税 | 二次相続の遺産 | 二次相続税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 100% | 0万円 | 1億円 | 770万円 | 770万円 |
| 50% | 175万円 | 6,000万円 | 180万円 | 355万円 |
| 30% | 245万円 | 4,400万円 | 20万円 | 265万円 |
| 0% | 350万円 | 2,000万円 | 0万円 | 350万円 |
仮定の例です。母が100%取得すると一次は0円ですが合計では最も多く、30%取得が合計最小です。ただし0%では母の手元が固有財産2,000万円だけになるため、生活費の最低ラインとあわせて決めます。
この仕組みを数字で確かめる
よくある質問
Q配偶者の税額軽減を使うと、必ず二次相続で損をしますか?
必ずではありません。母の固有財産が少なく、遺産が基礎控除に近い規模なら、二次相続でも税がかからないことがあります。合計で見て判断するために、一次と二次を並べて試算することが大切です。
Q一次相続で子に多く渡すと、母の生活は大丈夫ですか?
母の年金額・固有財産・住まいの状況によります。生活費と介護予備費の最低ラインを先に決め、下回らない範囲で配分を考えるのが安全です。
Q二次相続の対策として、母から子への生前贈与は有効ですか?
年110万円の基礎控除内の贈与や相続時精算課税の活用が一般的に知られています。ただし2024年の改正で暦年贈与の加算期間が最長7年に延びたため、早く始めるほど効果があります。個別の判断は税理士にご確認ください。
計算の前提条件・対象外事項・出典
- 基準法令日
- 2026年10月時点の法令(2026-10-01 時点)に基づく試算です。法改正により結果が変わることがあります。
- 計算の前提条件
- 一般的な制度の仕組みを解説したもので、個別の事情への適用を示すものではない
- 対象外事項(この試算に含まれないもの)
- 個別の税額計算、特例の適用可否の判定
試算結果のご利用にあたって
- 本ページの数値は、記載の仮定条件に基づく概算の試算値であり、個別の税額を算定・断定するものではありません。
- 各種特例(空き家の3,000万円特別控除、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など)は要件を満たした場合の試算です。実際の適用可否や個別具体的な税額計算は、必ず税理士にご確認ください。
- 運営者は税理士ではありません。個別の税務相談・税額の断定は行わず、一般的な制度の仕組みの解説と家計・不動産の維持費・売却手残りの比較に徹しています。個別相談窓口は設けていません。
- 不動産の評価額・売却価格は査定や市況により変動します。試算に使う価格は、不動産会社の査定など客観的な資料で確認してください。
- 詳しくは免責事項と計算の前提と出典一覧をご覧ください。
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